やっちゃえ先生探究記

生徒の力が引き出される「学習者中心の学び」をデザインしたい教員です。地道な形成的評価を大切に。

塾代、いくらかかる?〜manavee終了と教育格差〜

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manaveeというwebサービスをご存知でしょうか?

manavee.com

 【2017.4.20追記】

サービス終了に伴い、代表の花房さんの文章が掲載されています。自分の「失敗」に対し淡々と、かつ赤裸々に語っていて、一言で言うと私はぐっと来ました。

 

一言で言えば、「無料で大学受験のための映像講義が受けられる」サービスです。

一時期かなり話題にもなり、多数メディア露出していた記憶があります。

ただ、このサービス、2017年3月末をもって終了するということなのです。

 

◯「僕にはどうしても納得いかないことがある」

実は私は、manaveeを立ち上げた代表の方とお会いしたことがあります。

そこで彼が最初にぼそっと言った言葉がこれでした。

代表自身の経験から、日本における教育の機会格差を放っておいてはいけないという強い使命感を抱き、自らプログラミングを学んで、このサービスを作り上げたそうです。

 

淡々としたしゃべり口でしたが、その胆力と意志の力に私はただただ「すごい」と思うと同時に、「社会にはこういうサービスが必要だ」と強く感じました。

 

 

manaveeの運営母体まにゃびーのHPをみると、その存在意義が書かれています。

日本では、すべての人が等しく教育を受ける権利が保障されていますが、多くの人がおかれている環境により教育機会を左右されているという現実があります。
まにゃびーはこれらの教育における機格差を課題とし、すべての人が等しく教育機会を得ることのできる社会を目指して活動しています。(下線部は筆者修正)

出典:http://manyavee.org/index/index#services

 

はじめは学生団体のような形でスタートしたそうですが、NPO法人となったことを聞いて、「規模も大きくなり、組織を存続させるためにそうしたのだろうな」と、このサービスが今後も続いていくであろう動きに、少し嬉しくなったことを覚えています。

 

しかし、残念ながら終了してしまう事になったようです。

 

◯日本の高校生の塾代はいくら?

manaveeが終了する=manaveeの課題認識が間違っていた

ということではないと思っています。

 

例えば、文科省の調査から高校生が必要としている塾などの年間平均費用をみてみると(学校にかかる学費は除く)

公立高 高1:9.4万  高2:10.9万  高3:16.4万

私立高 高1:12.7万  高2:14.6万  高3:27.9万

出典:http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa03/gakushuuhi/kekka/k_detail/__icsFiles/afieldfile/2014/01/10/1343235_1.pdf

(ここでの費用は、各家庭での学習机や参考書等の購入費、家庭教師、通信添削等の通信 教育、学習塾へ通うために支出した経費等を指す)

 

となっています。

ここから分かる事は、

受験が近づくにつれ、その費用は高くなっていき、

公立よりも私立に通う生徒の方が、高額である。

といえると思います。

 

一般的に家庭の経済力が高ければ、私立に通わせやすくなり、塾などの補助教育費への投資も増す。

となると、manaveeの存在意義というのは、こういった現状に風穴をあける、教育の機会均等に少しでも寄与するサービスであると言えるでしょう。

  

◯それでも、終了してしまう理由

manaveeの運営に近しい友人から話を聞きましたが、そこには複数の要因があるようです。ただ、資金難というよりは、マネジメントのスタッフの不足、が大きいと聞いています。大きく分けて、

・授業を提供する講師

・サイト運営を行うスタッフ

がいると思いますが、両方が足りないのか、どちらかなのかは定かでは有りませんが、manaveeの終了について書かれた他の方のブログを読むと、その両方であるそうです。

 【2017.4.20追記】

ぜひ花房さん自身で書かれたmanavee「失敗」に関する文章を読んでください(冒頭リンク)。詳細に書かれています。NPOという組織の難しさ、経営者としてのもどかしさ、淡々と事実と思いを書いてくださっています。

 

そして驚いたのが、就職活動がそれに関係しているということ。

 最後に致命傷と言えたのは、manaveeの中でも比較的有用といえる講義動画を供与していた学生講師達が、就職などをきっかけにこれらを削除し始めたことでした。manaveeが元気だった頃は、「manaveeに動画を公開している」ということを就活の武器にしていた学生さんもいたのですが、むしろ足枷になると判断されるようになってしまったのです。

私が思うに、manaveeのようなサービスにボランタリーで貢献する学生さんの多くに共通するのが

「自分も同じような原体験をもっている」

ことだと思うのです。

苦労して、大学に進学し、奨学金を借りて今大学に通っている。

そういう学生だからこそ、同じような境遇にある全国の高校生の支援をしたいと感じる。

でも、逆にそういう学生だからこそ、就職活動では、経済的な安定を見込める場所を選ぶ、という思考になるのではないでしょうか。ジレンマです。

 

そういう就職を果たすことで、自分の苦労が報われる、周りも喜ぶ、という図式がみえるような気がします。

自分の講義動画を削除することはさておき、

大学卒業後も組織の運営にとどまる人が多くなかったのは、このような背景があるから、と思いました。その気持ちを否定することはできません。

うーん。悩ましい。

  

私としては、同じような問題意識を抱えているだけに、なんとかmanaveeのようなサービスは存続してほしいと思ってしまいます。

教育業界の友人にも声をかけましたが、教育とおカネの問題は本当に難しい。やっぱりある程度、国策の範疇になってきてしまう。

 

目の前の生徒と必死で向き合うしかない教員ですが、木を見るだけでなく、森もきちんとみて、何かしたい、と思う夜でした。